LOVE*CHOCO*KISS‼︎ 〜HQバレンタイン企画〜
第11章 《及川》セカンドキス
「バレンタインだから」
薄紅色の柔らかそうな唇が紡ぐだけで、その言葉がやけに甘く響く。
「知ってるよ。俺が一番楽しみで一番嫌いな日だったから」
ふと、寂しそうにしたナギの表情が胸にチクリと刺さるけど、嘘は言っていない。俺はナギを家の中に招き入れると、先に部屋に行くように促して二人分のカフェオレを淹れて部屋へ戻った。白い湯気が上がるマグカップを両手で掴むと、猫舌なナギはふうふうと息を吹きかける。まるで子供のようなナギの姿にクスっと声を漏らすと、白い頬は直ぐに膨らんだ。
「そうやって、すぐに膨れるところも昔のまま」
からかう様な俺の言葉にてっきり反論するのだろうと思っていたが、いつものような抗議の声は上がらなかった。それを不思議に思いながらナギを見つめれば、寂しそうな表情でマグカップを置いたナギがポツリと呟いた。
「もうすぐ東京だね」
「そうだよ。俺と離れるの寂しい?」
ローテーブルの上にある小さな手を包むように手を重ね合わせると、ナギは一瞬だけ視線を上げてその瞳を揺らした。
「うん」
俺が上京することも遠恋になることも、気にしていないと思っていたナギから寂しいと聞いた瞬間、俺は東京の大学へ進学を決めたことを少しだけ後悔した。
「……るは、寂しくない?」
俺は一瞬、聞き間違えだと思った。
「徹は遠恋でも平気?」
今までどんなに催促したって“及川”としか呼ばなかったナギが、初めて俺を名前で呼んだ。しかも、あんなに勝気なナギが泣きそうな顔で俺を見つめている。もう、ただの幼馴染だった二人は居ない。ここに居るのは恋人になった俺とナギ。
「この状況で名前呼びするなんてズルいよね」