第1章 アフロのカットは職人技
日も暮れてきて、夕陽が屯所の中庭をオレンジ色に染めていく。
人気の無くなった庭で仕事道具の片付けをする姉さんのことを、終兄さんただ一人が手伝っていた。
だが、これは毎回恒例の光景だ。散髪会の後は、決まって二人きりで後片付けをする。
別に何を話している訳でも無さそうだけど、二人共とても楽しそうにしているから、こっちも見ていて心が温かくなるんでさァ。
俺はと言えば、これもいつもの事ながら、少し離れたところの縁側に腰かけて二人の姿を見守っていた。
せっかくの姉さんとの時間を邪魔しちまったら、終兄さんに悪いんでねェ。
終兄さんは他の隊士達がいるとあまり話さない。だからああやって残って、姉さんと過ごす時間を作っているんだろう。
しばらくすると、二人の様子からどうやら片付けが終わったらしいことが分かったので、俺は腰を上げた。
なんで俺まで残っていたのかって言うと、もちろん姉さんをお見送りするためでさァ。
だけど、終兄さんの邪魔もしたくないから、こうやって離れたところで待機している。
たっ、たっ、と自然と小走りになってしまいながら二人に近づいていくと、姉さんに向かい合うようにして終兄さんが立つのが見えた。
相変わらず終兄さんの口元は動いていないように見えたが、姉さんがうんうんと頷いているので、きっと何か話しているんだろう。
さらに近づいて行くと、姉さんの声が聞こえた。
「え?何なに…」
いつもの様に姉さんが通訳しようとすると終兄さんは急に、しーっと唇に指を立てた。
「さん、俺のアフロを一生切ってくれませんか?」
それは紛れもなく、終兄さん自身の声だった。「Z~」しか聞いたことは無いが、それでもこの声は終兄さんのものだと確信できた。