第1章 ふわふわオムレツ【菊丸英二】
菊丸「俺さ、オムレツ好きなんだよねー」
オムレツ…?
いきなりの言葉に一瞬沈黙し、数回瞬きをする。
突然どうしたのだろうか、普段から彼はぷりぷりやらシャリシャリやらと言って好物に擬音を付ける癖がある。
勿論、彼の言ったオムレツにも似た様な擬音が付いていたのを、私は覚えていた。
名前「知ってるよ、ふわふわオムレツでしょ?」
恋人の好きな物くらい、覚えていて当然だと、私は平然と答える。
ただ、その好物を今更教える事が何を意味しているのかが、いまいち理解出来なかった。
受話器の向こうで、うーん…と考える様な声が聞こえる。そして、えへへー…と何かを切り出そうとしているのか、照れ隠しに笑う。
菊丸「あのさ、俺…名前ちゃんが作ったふわふわオムレツが食べたいんだ」
名前「私が作った…?あ、えっと…?」
それを土曜日である今日切り出す事に何か意味があるのだろうか?
受話器を片手に、もう片方の手でクッションを抱き締め首を傾ける。