第9章 9話
(爆豪)
「んでシッポのやつ止めなかった」
レクリエーションがはじまり、その場から退散しようとした彩夏を引っ張って中庭までやってきた爆豪は問いかけた。
(彩夏)
「…なぜ、そんなことを聞くの?勝己は尾白くんと仲良かったの?」
あくまでも冷静に。顔には出ないように頑張っているらしいが、少々顔が引きつっているのを目ざとく見つけた爆豪。
(爆豪)
「…」
(彩夏)
「黙ってたら分からないよ。私、もう行くね。
1回戦頑張ろう。じゃあ」
その場を立ち去る彩夏を横目に見ながら爆豪は「チッ」といつものように─いや、いつもより大きな舌打ちをするとその場に座り込んだ。
「なぜ、そんなことを聞くの?」
当たり前だ。あんな顔しながらシッポを見つめていたから、俺は嫉妬した。
自分には決して向けてくれないような、あの視線を自分にも向けて欲しかった。
彩夏の目線は俺だけに向けばいいのに。
いつもの彩夏ならば、シッポのことを「一緒に頑張ろうよ」、と止めただろうか。
いや、いつもの彼女であってもしないような気がした。誰でも気さくに話しかける彼女を慕って相談をしに来るやつは多い。
だがいつも彼女は彼らと一線を引いていたような気がする。出席しない授業の数や“先生の所行ってくる”、と言うことで彼らから“故意的に”離れていたのではないだろうか。
彩夏は、何かを隠すために俺らから逃げている。
一度そう思ってしまうと、そうだとしか考えられなくなる。
爆豪は眉間のシワを押すようにマッサージしながら、今まで吐いたため息の中で1番大きなため息をし、その場から立ち去った。