第7章 宴
椿が部屋を出てから大分経っているように感じる。
(大丈夫かなぁ…まだかなぁ…)
信長様が何となく歴史で勉強したようなただひたすらに冷徹な人ではないというのは知っている。
が、戦場においての信長様の目の冷たさを忘れられない。
(ここに来てまだ2日しか経ってないわけだし、全面的に信じちゃダメなんだろうな…)
そんなことを思いながらごろりとねっころがっていると、
「絢様、入ってもよろしいでしょうか?」
とさくらちゃんの声が聞こえてきた。
私は慌ててがばっと起き上がり、襖を開けた。
「どうぞ!」
さくらちゃんは一人でこの部屋に来たみたい。
「どうしたの?」
さくらちゃんを部屋に招き入れて私は尋ねた。
「実は…」
そう言ってさくらちゃんは隣部屋の襖を開ける。
隣部屋は私の部屋だったはずが着物やら装飾品やら化粧品でいっぱいだった。
「わお」
(だから椿は自分の部屋に私を案内したのか…)
私は一人で納得する。
「さくらちゃん、これはどんな感じでこうなったの…?」
いそいそと部屋の片付け(といっても物はほとんどない)をしていたさくらちゃんはくるりと振り返って言った。
「今晩の宴の衣装ですよ!信長様はお二方をお披露目されるおつもりなのでしょうか?先程こちらをお召しになるようにと打掛を頂きました」
「え"」
まさかの宴強制出席…
「さくらちゃん、宴って辞退したりとかは…」
私はおそるおそる尋ねた。
「何をおっしゃってるんですか!折角の機会なのですから、勿体無いですよ」
(まぁそうですよね~)
私は小さく「そうだね」と呟いて頷いた。
何も宴が嫌なのではなく、あんなことをしてしまった信長様と対面するのがちょっと、いや大分怖い。