第4章 城下
目をあけて私は茫然とした。
三つの刀が持ち主から遠く離れた地面に落ちていて、取り巻き達は地べたに座り込んでいて、男の人は刀を再び鞘に戻していた。
男の人はさも不愉快そうに言った。
「骨の無い奴等だ。つまらん」
取り巻き達はひたすらに怯えて、ボスらしき人と気絶してる人を引っ張って逃げ出そうとしていた。
が、男の人がボスの袴の裾にさっきはじいた刀を投げつける。
「ひ、ひぃ」
男の人は勘定をおばあさんに渡し、去りながら言った。
「…お前ら、店主の治療代も払ってから行け。店主、騒いでしまったことを詫びる。馳走になった。」
「は、はいい」
取り巻き達は持っていた巾着袋ごと投げて風のように去っていった。
男の人もおばあさんにお勘定をしたあとさっとその場を去った。
(助かった…。お礼を言わなくちゃ)
私は意を決して男の人に声をかけた。
「すみません、」
だが男の人が気付く素振りはなく、早歩きでどんどん行ってしまうので私は無理やり前まで走っていって言った。
「あの!ありがとうございました。どなたかは存じませんが、お手を煩わせてしまい、すみません。」
男の人はゆっくりと振り向いて言った。
「お前の為にしたのではない。酒が不味くなったからだ」
そう言われてしまったが、それでも感謝していることは伝えたくて言った。
「でも、結果的に助けて頂きました。ありがとうございました」
「…」
男の人はちらりと私を見て、背を向けた。
「…死にたくなければ二度とこのような事に首を突っ込むな」
「はい」
男の人は歩き出して人混みに消えていった。
(また会えたりは…しないよね)
私は元いた甘味処に戻った。
すると店頭に、見覚えのある、昨日の夜も見たこの時代には無い形の鏡をかけている男の人ががいた。
「すみません、わらび餅七つ下さい」
(7個⁉そんなに食べるんだ…)
私がびっくりしてまじまじと見ていると男の人と目があった。
「き、君は…」
男の人はこちらへ歩いてきて言った。
「僕は猿飛佐助。…君はたしか昨日の夜、本能寺跡にいたよね?」
「丹沢椿です。はい、昨日お会いしましたよね…?」