第3章 初陣
いつの間にか朝になっていた。
(長い夜だったな…)
夜は結局魘されまくったが、椿に会えると思うと気が少しは落ち着いた。
夜明け頃から織田兵達は陣の片付けに終われているようだった。
私はまだ起きたくなくてごろごろと寝返りをうちながら微睡んでいた。
空が大分明るくなった頃に外から声がかかった。
「姫様、おはようございます。お支度はお済みでしょうか?」
私は急いで起き上がって言った。
「え、あ、後少ししたら終わります!」
「左様でございましたか。半刻後に出立致しますので姫様のお支度が済みましたらお呼びください。天幕を片付けに参ります」
「は、はい」
足音が遠のくのを待って私は急いで飛び起きると学校に遅れそうな日くらい早く着替えて髪を手櫛で解かすと天幕の外に出た。
兵達は慌ただしく動いていて、私は邪魔にならないよう陣営から少し離れた所にある小川で顔を洗った。
小川の水面はきらきらと輝いていて、木々も太陽の光を浴びて緑が眩しかった。
(綺麗…)
昨日あんなに人が死んだのに。
世界は変わらないんだなぁと前に本で読んだことがあるようなフレーズが頭をよぎる。
「貴様、何をしている」
「うわぁ!」
突然信長様が現れて驚いた私は危うく小川にダイブしそうになる。
…まぁ信長様が腕つかんでくれて助かったんだけどね。
信長様は呆れたように言った。
「大事ないな」
「は、はい、ありがとうございます」
私は慌てて袴についていた土を払って立ち上がった。
それを見て信長様はもと来た方向を向くと言った。
「帰城する。来い」
「…はい」
何だかこの一日が長く感じた。
帰りは基本信長様の馬に乗るらしい。
「失礼します」
「あぁ」
私は城の方を見やる。
頭から戦の景色が離れなかった。