第1章 出会い
─6月、水無月─
それは、天上の水がなくなるのではないかと昔の人が考えたくらいに雨が降る、梅雨の季節。
今日もじとじとと雨が降っていた。
「あーぁ、疲れたぁ」
学校からの帰り道、スクールバッグと傘を持ち変えながら私は口を尖らせた。
「ちょっと絢、雫が入ってきたんだけどー」
そう言って私のスカートの裾を濡らそうとしてくるのが椿、私の親友だ。高2にして技術力と人望の高さからバレー部の副主将を務めている。
「うわっ、ちょっと椿、濡れるって!!」
雨曇のせいも相まってか辺りはすっかり暗くなってしまっていた。
「やっぱりテスト期間後の部活はしんどいねぇ」
何事もなかったかのように飄々と話す椿にうらめしげな視線を送りつけてから言った。
「ほんとに。くったくただよ。おまけに5月末からずっと雨だしさぁ」
しばらく黙って歩いていると、椿がぽつりと言った。
「もう6月かぁ…」
後輩が部活に入ってもう1ヶ月、この前まで高一だった私達ももう最下級生ではない。
時の流れの早さに私はなんだか無性にもやもやして、それを振り払うように路面の水溜まりを蹴った。
「絢ー、そんなことしたら靴濡れちゃうよ」
「いいのー!」
どうせ明日も雨なんだからさ、と呟く。
すると椿が私の背中をドンと押して言った。
「それがさ、明日夜は晴れるんだってー!明日大会だから遅くなるし、ランニングがてら星見ようよ!」
「ほんと!やったぁ!!」
「絢、もちろん明日頑張ろうね!」
「あたりまえじゃん!私より椿こそスタメンなんだから頑張ってよ」
「はいはーい」
「頑張ってこそのご褒美だからね!」
「あたりまえ」
久しぶりの晴れに期待を膨らませながら私逹は明日の夜に思いを馳せながら足取り軽くそれぞれの家に帰った。