第2章 安土城
私は伊達さんの馬に、椿は明智さんの馬に揺られて帰っていた。
「あの、私達が武将方の馬に同乗しても良かったんですか?」
「普段はない。今回はお忍びだからできたという訳だ」
ふと疑問に思って尋ねると明智さんが答えてくれた。
「そうでしたか。あの…」
「何だ」
「何とお呼びしたら…?」
「好きにしろ。ただ『明智さん』は堅苦しいな」
「そうですか…。では、光秀さんとお呼びしますね」
私がそう言うと光秀さんはまた「好きにしろ」と言って視線を前に戻した。
また暫く馬に揺られていると、山中にそびえ立つ大きな城が見えてきた。
私は不思議に思い、再び光秀さんに言った。
「もっと高いところに築城しなかったんですね」
「…」
「すみません、私、現存していないと習った安土城をこの目で見られたのが嬉しくて。到着まで黙っていますね」
「いや、答えよう。安土城は信長様の御意向で戦のための城でなく日ノ本を治める為の城。故に山頂に築城する理由はない」
「なるほど…ありがとうございました」
そう言って私は再び安土城を見た。
もうすぐ到着する、すなわち乗馬時間が少ないと知ってこんなに長時間馬に乗ったこともなかったからお尻が痛いなぁと椿は一人思っていた。
すると隣で絢がもう耐えきれないとばかりに言った。
「あ~疲れた~!信じられないくらい全身が痛い!」
(うん。お尻と言わなかっただけ上出来)
すると伊達さんがにやりと笑って言った。
「じゃあ早駆けるするか」
「え"、やだ!もう散々…!」
絢はあからさまに嫌そうな顔をして言った。
随分仲良くなったんだなぁと思いながら二人を見る。
「遠慮すんなって」
「してないしてない。ほんとにしてない!」
伊達さんは絢の必死の抵抗を意にも介せず信長様に振り返って尋ねた。
「信長様、安土城まで先に行きますが…」
「ふん、好きにしろ。俺が止めようが貴様が早駆けするのは解っている」
「ありがとうございます─はっ」
「え、待って、ちょっと!!!!!ああああああぁぁぁぁぁ─」
伊達さんは掛け声をあげると絢の叫び声が響く中、風のように走っていった。