第10章 碁
椿が道場に行った後、私は暇をしていたので書庫に行くことにした。
廊下に出て少し歩くと三成さんに会った。
「おはようございます、三成さん」
「おはようございます、絢様。どちらに行かれるんですか?」
三成さんはにこりと笑って尋ねた。
なんていい笑顔。癒し効果がありそう。
「ちょっと書庫に。暇をもて余してて…」
「それでしたら、私も丁度書庫へ行くところですのでご一緒してもいいでしょうか?」
「大丈夫ですよ!」
駄目なわけがない。
実は道がわからないまま出てきてしまったから助かるしね。
かくして私達は一緒に書庫に向かった。
「絢様は書物がお好きなのですか?」
「好きだけど」
「けれど、と言うのは?」
三成さんが顔を覗き込んできた。
(顔が近くないか?!)
「当たり前だけど筆で書いた文字が読めなくて」
「絢様の故郷には筆以外に書くものがあるのですか!」
「ありますよ」
「面白いな」
(誰?!)
ばっと声がした方を向くと廊下の先に信長様がいた。
「信長様」
相変わらず何だか部屋着みたいな格好をしている。
「先程の話の続きを早く言え」
「いやですー」
私は数日前信長様にさんざん振り回されたことを思い出しとっさに断ってしまった。
「…そうか」
(やばい、殺されたらまずい)
「情報は大切なものですから、そう易々と話せません」
「先程三成に話していたがな」
「う"っ」
「まあ良い」
信長様はにやりと笑っていった。
何だか嫌な予感がする。
「では勝負に勝てば相手に情報を与えることにしよう」
「いや、私別に情報を求めてないんですけど…」
「今宵、天主に来い」
そう言って信長様はさっさとどこかへ行ってしまった。
…行かなかったら命がなくなるやつだ。
私は心の中で頭を抱えた。