第9章 褒美
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その頃、城下の外れにて…
「謙信様、そういえば今回はいつ帰るんですか?もう粗方済んじゃった感じですけど」
忍の風貌をした男が雑木林に囲まれた小さな家屋の天井裏から降り立って言った。
「確かにいつもはさっさと帰るのにな」
短髪の青年も握り飯を頬張りながら言う。
「女ができたんじゃないか?」
酒を仰いでいる大柄の男もからかい混じりに言った。
「ほざけ」
謙信と呼ばれた男は杯を片手にそう吐き捨てた。
「少々気になることがあるだけだ」
「そうですか」
忍の男は表情を変えずに答えた。
「安土に姫が二人舞い込んだ事か?」
「それが気になるのは信玄さまくらいです、といいたいとこだが」
信玄と呼ばれた男はにやりと笑った。
「出所があやしいんだよなー」
「そうですね」
忍の男は相づちを打つ。
「本当に天女かもしれないな?」
「たかが女二人だ。放っておけ」
謙信は不快そうに言った。
「…」
「どうした佐助」
佐助と呼ばれた男は眼鏡の位置を直して言った。
「なんでもありません。少しぼーっとしてました」
「食えん奴だ」
「表情が変わんないからな」
夜も更けていて、杯を片手に語らう男達の上に月が高く登っている。
「椿、か」
謙信は城下で出会った女らしからぬ女子の名前を口にして酒をあおる。
酒は心なしか澄んだ味がした。