第8章 再び
「正当、防衛…?」
男の人は眉をひそめる。
「自分を攻撃しようとした相手に対してカウンターを取ることです」
「かうんたあ」
男の人は不満そうにしていたが突然にやりと口角をあげた。
「お前は面白いな」
「はい?」
「良くわからぬ言葉を使うところが俺の部下に似ている」
オッドアイの人は刀を振って付いていた血を払い、鞘に戻した。
「お前に免じてこいつらは放っておいてやろう」
心なしか少し楽しげな命の恩人を見て私はさっきまでの感情が一気に飛ぶのを感じた。
「あ、ありがとうございます?」
私も手に持っていた下駄の存在を思いだし今更感が否めなくもないが履いてみた。
「お前、どこの者だ?名をなんという?」
「椿です。安土に居させてもらっています」
私がそう答えると男の人は少しだけ驚いたような顔をした、ような気がした。
「そうか。では椿、以後追われぬようにしろ」
そう言って男の人が黒いマントのようなものを翻して去ろうとする。
「あの…!」
私は昨日と全く同じ台詞を放った。
「貴方のお名前は…?」
男の人は背を向けたまま立ち止まった。
「上杉謙信。暫くは城下にいる」
そう短く答えて謙信様は去っていった。
(上杉謙信といえば)
現代では知らない人の方が珍しいと言っても過言ではないくらい有名な戦国武将。
あの信長ですら謙信と信玄が死んだあとじゃないと天下一を名乗らなかったという…
「とりあえず茶屋に戻ろう」
私は謙信様に会ったことは隠しておいた方が良さそうだと思い、伏せておくことにした。
茶屋には政宗と部下の人、佐助さんに絢がいて、私は敵は撒いたと政宗に話し、とりあえず怪我もなく無事で良かったと皆に心配され、安土城に早く帰ろうと佐助さんが言って私たちは帰路についた。