第5章 chapter 5
「翔、くん…?」
俺が食い入るように、智くんの躰に彫られたタトゥーを見ていると、戸惑ったような、困惑したような智くんの声が耳に入ってくる。
その声に、ゆっくりと智くんの躰から手を離し、今度は首元へ手を伸ばしてするりと撫でた。 その行為に、若干肩を揺らしながらも、智くんは俺の方をじっと見つめている。
「ねぇ、さっきの話…どうなの?」
俺は、智くんの首に手を置いたまま、強請るように、我儘を言うように問い掛けた。
この瞬間も、全てが大学時代のあの時のようだった。 絵の具で服を汚した智くんを上半身裸にしたまま、何度も何度もキスを重ねて。
――あの時と何も変わっていないな――。
そう思う自分に苦笑を零しながらも、しんとしたままの空気の中、智くんの返事を待った。
すると、困ったような表情をしたままの智くんが、ゆっくりと口を開いて…。
両手で俺の頬を包んできた。
「…いないよ、付き合ってる人なんて」
「…っ、智く――」
俺が彼の名を紡ごうとした瞬間、彼の両腕が俺の首に巻きついた。
――これは、もしかしなくても…誘っている、のか――。
そんな理性との葛藤に追い込まれた俺は、どうする事も出来ず、ただ智くんの声に耳を傾けるしかなかった。
「ずっと、ずっと…僕はあの時から何も変わってないよ」
そう切なそうな、そんな声音で話す智くんに、どうしようもない感情が湧き上がる。
そんな事を言うのは、ずるいよ…智くん。
あれから俺だけが変わってしまったみたいな言い方じゃないか。
俺は、智くんの知らない間に女性と結婚して、子供を授かって、幸せな家庭を築くはずだった。
けれど、それも結局は上手くいかずに終わってしまった。
それでも、そんな事を智くんに言われてしまえば…全て俺が悪いように聞こえてしまうのだから仕方がない。
俺だって、あの時からずっと…智くんへの気持ちは、それだけは変わっていないよ。