第3章 chapter 3
【現在】
そう、そうなんだ。
彼はあの日から、あの時から。 俺の前に一生現れることは無かったはずだったんだ。
なのに、それがどうして…今、俺の目の前にいたんだろう。
俺は、突如現れた智くんから逃げるようにして、家に帰って来た。 まず、潤の手洗いうがいを誘導させて、服を着替えさせる。 それが終われば、テーブルの椅子に座らせて事前に作られてある夕食を食べさせた。
その間も、ざわついた心が落ち着くことはなくて。
何故、一体今更なにをしに、伝えに、現れたのか分からない智くんのことばかりを考えていた。
俺がどれだけ考えたって、智くんの頭の中なんて分かるはずもないのに…。
そんな動揺と焦りが、息子の潤にも伝わるのか、潤はカレーをほうばりながら俺の事を様子を窺うようにちらちらと、見ていた。
心配をかけてはいけない。息子にまで、不安や焦りを感じさせる訳にはいかない。
だったら俺の取るべき行動は…。
「ぱぁぱ、たべないの…?」
「ああ、さっき父さん達に声をかけてきたお兄さん、居ただろう?」
「うん!ぱぁぱのことしってるみたいだったね!」
「そうなんだ、あの人はね、父さんの友人で…さっき挨拶出来なかっただろ?」
「うん…」
「少し挨拶をしてこようかと思ってたところなんだ、潤…許してくれるかな?」
息子の顔色を伺いながら、難しい顔をしている潤の頭を撫でた。 すると、潤は俺の方を見て、笑顔で応えた。
「いいよ! だってぱぁぱのおともだちだもんね!」
「潤は優しいな、もうすぐ、斗真のおじさんが来るから、遊んで待っててな?」
「とーま来るの!? ぼく、いい子でまってるね!」
「ああ」
俺は、会社の同僚の生田に電話をかけて、家に来てもらった。 この時間に息子を一人にするのは不安だし、もしかしたら帰って来れないかもしれないと、そう思ったから。
数分で家に訪ねてきた斗真に、多少の説明をする。
「悪いな、突然来てもらって」
「いーや、全然構わないよ、俺も潤くんと遊びたかったし…それに櫻井の大切な再会を応援したかったからね」
「はは、大切って…うん、まぁ取り敢えず、潤のこと頼んだ」
「任せておきなよ、行ってらっしゃい」
「ありがとう…」
俺は、生田に背中を押されるようにして、家を飛び出した…。