第4章 悪魔と、死神と、切り裂きジャック
マリアンヌは三角巾にマスク、袖のついたエプロンにゴム手袋を装着して検死室に入ると、アンダーテイカーは早くも遺体を抱き上げ台の上に乗せ、白い布を1枚、また1枚とめくっていた。
「イ〜ヒッヒッ。今回も酷いね〜。」
酷いと言っている割には実に楽しそうだ。
「それじゃあマリアンヌ、始めようか。」
マリアンヌはコクリと頷くと、アンダーテイカーの右側に立つ。
マリアンヌの役割はアンダーテイカーの助手といったところだ。言われた器具を正確に手渡し、検死や棺に入れるための準備や手伝いをする。
アンダーテイカーの店にやってくる遺体は決まって“ワケアリ”のものばかり。
最初こそスプラッタな遺体の数々に少しギョッとしたが、相手はもう死んでいるのだ。体内に器具を突っ込まれようと、縫合の針を刺されようと、泣きも喚きもしない。
そう思うと、不思議な事にこの仕事はすぐに慣れてしまった。
「マリアンヌ〜、見てごらん。」
まず、致命傷を負わせたであろう頸部の深い傷を縫合し終えたアンダーテイカーは、もう人間としての原型を留めていない腹部を指さした。
マリアンヌは言われた通りに視線を向ける。
「見えるか〜い?今回も同じ手口だ。どんどん躊躇いが無くなっている上に、奪い方も残虐だね〜。女の子の大切なトコロをこんなにしちゃうなんて。かわいそうに〜ヒッヒッヒッ。」
身体の中をあらかた見て満足すると、アンダーテイカーは鼻歌を歌いながら腹部の縫合に取り掛かった。
なんだかよく分からない歌詞だがおそらくは自作の鼻歌なのだろう。死体をいじる時によく歌ってるが、よくよく耳を傾けてみると、自身とこの店の事について歌ってるようだ。
マリアンヌはその歌詞に少し面白くなりマスクの下でクスリと笑ってしまった。
一通り縫合が終われば棺が用意してある安置所に運ぶのだが、まずはこの血だらけの身体を拭いてあげなくてはならない。
マリアンヌはバケツにぬるま湯を汲んでくると、タオルを使い、隅々まできれいに拭いてやった。