第4章 悪魔と、死神と、切り裂きジャック
シーズンになると、ロンドンの街は郊外の本邸からタウンハウスにやって来た貴族達でより一層賑わい、近隣の豪華な御屋敷では連日のように夜会が開催されていた。
そんな華やかな夜会とはまったく無縁といえる見るからに怪しい佇まいの店。
その名も「葬儀屋アンダーテイカー」。
しかし、連日開催される夜会とは別の意味でこの店も、現在ある種の賑わいを見せていた。
「入るぞ、アンダーテイカー。」
「おやおや、皆様お揃いで。また例の“お客さん”かい?」
2人で紅茶を飲んでいると、店の扉が開いた。
入ってきたのはスコットランドヤードの面々だ。
「そうだ。詳しくはまだ捜査中だがな。引き取りは明日。それまでに済ませておけ。」
すると、担架に乗せた白い包を2人の刑事が店の中まで運び入れてきたため、マリアンヌは廊下に続く奥の扉を開けてやった。
「(どうぞ……)」
手のひらを廊下の方に向けると、慣れた手付きで廊下奥の貨物用エレベーターに白い包を置いていき、ヤード達は店を後にした。
──パタン──
「(例のお客さんって、またホワイトチャペルの娼婦の方ですか?)」
「あの様子じゃそうみたいだね〜。」
ちょうどシーズンに入った辺りからだろうか。
この近辺で娼婦殺しが起こり、遺体の処理の依頼が何件か続いていた。
しかし、ここ数日はホワイトチャペルの娼婦を中心に殺人事件が頻発している。
街では号外が配布されたり、貴族の屋敷には見張りが雇われたりと、華やかなシーズンの裏側では血生臭い事件が解決されぬまま次々と娼婦が殺されていたのだ。
その躊躇いのない残虐な殺人現場から人々はその犯人鬼をこう呼んでいた。
─ジャックザリッパー、切り裂きジャック─と。
「マリアンヌ〜、お客さんも来たことだし、今日もお仕事始めようか。」
アンダーテイカーは手に持っていた骨型クッキーを口に入れて紅茶とともに飲み込むと、廊下まで出ていき、貨物用のエレベーターを、地下室まで動かした。
「(は、はい。)」
そして、マリアンヌは店の外のプレートを「CLOSE」にひっくり返すと、カギを閉め、アンダーテイカーの向かった地下室へと急いだ。