第11章 死神アンダーテイカーの裏の裏
そして、遠慮がちにそっと扉が開く。
入ってきたのは顎髭を生やしキャスケット帽を深く被った男だった。
すると、アンダーテイカーはマリアンヌとのキスがお預けになってしまったが、触れる程まで近づいた距離を離すことなく視線だけをその男に向ける。
「やぁリアン…そろそろ来る頃かと思ったよ…」
「…………」
店に訪ねてきた人物…
それはカルンスタイン病院で院長を勤めるリアン・ストーカーだった。
前々から時折店に顔を出していたが、この所はよく訪ねてくる。
リアンは帽子を取り、顎に生やしていた付け髭を外しポケットにしまうと、扉を閉めて中に入ってきた。
「ごめんよマリアンヌ…お茶の用意をしてくれるかい?」
「(は、はい…!すぐに!!)」
アンダーテイカーは心底残念そうにマリアンヌの顎を撫でると膝から降ろし、リアンと地下の応接室へと向かって行った。
「(お待たせ致しました…)」
マリアンヌが地下にある狭い応接室に、2人分の紅茶を持っていくと、軽く会釈をしながら紅茶を出す。
「す、すまない…」
マリアンヌの美貌に少し緊張してしまうリアン。
「ありがとうマリアンヌ。そしたらビャクと一緒に店番をしていておくれ。」
「(はい…では失礼します…)」
マリアンヌは扉の前でお辞儀をすると部屋を後にし店に戻った。
店のイスに腰掛けると、ビャクが飛んできた。
『クルルル…』
「(ん?アンダーテイカーさんは今お客様とお仕事の話をしてるのよ。)」
マリアンヌはビャクの背中を撫でてやりながら説明をする。
「(…………)」
ボンヤリと店の中を見渡すが、客が来ない以上何もする事はない。
アンダーテイカーは基本的には接客はこの店の中でする。
しかし、地下の応接室へと案内する客の時は決まってマリアンヌは“店番”をさせられるのだ。
それはきっと“自分でも聞いてはいけない仕事の話”をしているんだろうと、マリアンヌは漠然と思っていた。
ことにリアンはわざわざ変装までして訪ねてくるのだ。
直接アンダーテイカーに聞いた事はなかったが、おそらく自分の想像で間違いはないだろう。