第9章 フタリノキモチ
「というわけなのさ。どうだいビャク?素敵な話だっただろう?」
『…………』
すぐに手を出さなかったのは褒めてやらなくもないが、節操無しな所は今も昔も変わりはない。
そんなアンダーテイカーにビャクは呆れて答えてやる気にはなれず、只々無言を貫いた。
だが、マリアンヌが人間を嫌い、アンダーテイカーの側から離れたがらない理由がよく分かり、その点に関しては納得がいった。
マリアンヌの心と身体の傷は人間によって深く刻まれたものであり、それは人間ではない死神であるアンダーテイカーでしか救えなかったのだ。
長々とアンダーテイカーの話を聞いていたらもう間もなく時計の針は正午だ。
すると、廊下に繋がる扉がカチャリと遠慮がちに開いた。
「マリアンヌ、起きたのかい?」
「(あ…寝坊してしまって…すみません…)」
マリアンヌは寒かったのか、寝間着の上に昨夜アンダーテイカーが脱ぎ捨てたと思われるローブを羽織って、おずおずと店に入ってきた。
まだ眠たそうに目をこすり、昨夜の激しい情事で長いダークブロンドの髪の毛は乱れたままだった。
そんな無防備な姿に、いかがわしいスイッチがオンになったのか、アンダーテイカーは勢いよく立ち上がるとマリアンヌにかけより抱き上げた。
アンダーテイカーの膝の上にいたビャクは仕方なく暖炉の側の骨の止まり木に止まる。
「おはよう〜マリアンヌ〜小生起きてくるのをずっと待っていたんだ。」
「(す、すみません!すぐに支度してお手伝いします!)」
「今日はいい、こんな雨だし臨時休業にしよう!」
「(え?え〜?!)」
「さぁ!ベッドにいこう♪今日は一日中マリアンヌを可愛がらせておくれ〜」
「(まっ!待ってください!キャア!!)」
すると、アンダーテイカーはマリアンヌを抱き上げたまま走って店を出ていってしまった。
この様子じゃ明日の朝まで戻って来ないだろう。
ビャクは呆れて盛大にため息をつくと、タオルの引いてあるカゴに入り、雨の音を聞きながらやれやれとふて寝を決め込んだ。