第4章 悪魔と、死神と、切り裂きジャック
しかし、シエルは静かにアンダーテイカーの言葉を否定した。
「優しくなどない…僕はこの女の命を優先させるならその方法などいくらでもあった。それでも切り裂きジャックを捕らえることを優先し、見殺しにしたんだ……そう、身内さえも、見殺しにした…」
「そうかい…」
「それに…これは我が一族が背負う業だ。今更後悔も何もない。分かったなら屋敷まで来い。遺体は屋敷に安置してある。」
「ヒッヒッ…そういうことなら引き受けようかね。準備をしてくるから少し待っていておくれ〜。」
「あぁ…外に馬車を待たせてるから急げよ。」
アンダーテイカーは遺体の処置に使う道具を鞄に詰め込むとマリアンヌが眠る寝室へと向かった。
「(………ん……)」
少し眉を寄せている表情から、安らかに眠っている様では無さそうだ。
昨夜の様子を考えると、無理矢理起こしてもきっとついていくとは言わないだろう。
アンダーテイカーは枕元にシエルの屋敷にいる事をメモに残すと、その愛しい唇にキスを落として寝室を後にした。
外を見れば棺を積み込む馬車までご丁寧に用意されていた為、アンダーテイカーは地下室から2体分の棺を店から出すと、馬車に積み込み、シエルの屋敷まで向かった。
絶望の淵に立たされ、死神の誘惑に囚われ散っていったマダム
憐れにもその命を奪われ死んでいった娼婦たち
身内をも見殺しにしても尚も突き進む事をやめない女王の番犬、シエル
再び心を崩壊させたマリアンヌ
再度マリアンヌの愛を確認することのできたアンダーテイカー
それぞれがそれぞれの想いを胸に切り裂きジャック事件はようやく幕をおろした。