第3章 手と手
モグモグと幸せそうに堅いからあげを頬張る。
そうして一個減り、二個なくなり、ついには全部平らげてしまった。
「ごちそうさまでしたぁ!美味しかった!!ね!」
そう言って、帯の上から腹を撫でる。
最近、また少し目立ってきた気がする。だけど、まだ得心がいかない。
まさか、自分が父親になるなんて。
「あ、動いた!家康!」
美穂に包帯を巻いた手を拐われて、帯越しに腹を触る。言われてみれば、動いてるような気もする。
「元気な若君!誰に似たのかな?」
悪戯っ子みたいな目で、俺を窺う。
「何で男って分かるの」
「ん~、改めて聞かれると困るんだけど.....何となく?」
「...ふーん」
美穂は日ごと母親になっていく。
俺の知らない美穂になっていく。
なのに俺だけ変わらないまま――
「......家康。そんな顔しないで」
「ぇ.....」
「この世の終わりが来たみたいな、哀しい顔してた」
この世の終わり。
得てして妙だなと思うと、自嘲気味に口が開いた。
「二人じゃなくなった。だからある意味、この世の終わり。美穂はこうしてても母親になっていくのに、俺だけ男のままだから」
「.....そうか。家康はそう思うんだね」
勝手に腹へ持っていった手を、今度は自分の頬に触れさせる。俺の両手に包まれた美穂は、しばらく目を閉じたままだった。