第3章 手と手
「堅い」
「顔痩せに持ってこい!」
「味がしない」
「薄味は健康の要!」
「からくない」
「唐揚げにからさは求めてない!」
「揚げすぎ」
「生肉恐ろしや!」
欠点を挙げつらっても、ことごとく即答で否定されていく。どうしてそこまでして、俺が作ったこんなものが食べたいわけ?
ニマニマしながら『もう1つ....』と、からあげに手を伸ばした美穂を、どうやら苦々しげに見つめていたらしい。
俺の視線に気がついた美穂が、ふっと目元を和らげて、優しく笑う。
「家康が、他の誰でもなく私のためだけに作ってくれた。手に火傷をいっぱい拵えてまで」
「.....気づいてたの」
「気付かない私だと思ったか!」
美穂が、またカラカラと笑う。
一頻(ひとしき)り笑ってまた、穏やかな顔つきをする。
「それが嬉しいの。だからちゃんと食べたいの。世界でたった1つの、家康が作ってくれた唐揚げだから」