第1章 叶わぬ想いを胸に
夜の9時をすぎようとするころ、私服に着替えたエルヴィンとミケは兵門の前で落ち合っていた。
「どうするエルヴィン、一杯やってから行くか?」
「いいや、悪いがミケ、今日はこのまま直で行きたい。」
「なんだよ、性急だな。お前らしくないぞ、なんかあったのか?」
「あぁ、積もりに積もって…色々とな。」
「まぁいい。じゃあ行くか。」
2人は表通りを避けながら、人気の少ない古びた小さな宿屋の様な建物の前にやってきた。
小さな扉には何故か「仕立て屋」と書かれたボロボロのプレートがかかっている。
扉をあけると、狭いフロントの受付に立っている、深くフードをかぶった女が2人に声をかける。
「仕立ての注文かい…?」
その声は割と年配だ。
「滾る心の命ずるままに…」
エルヴィンがそう答えると、フロントの女は手元にあった小さなベルを鳴らし、壁に向かって声をかけた。
どうやら今の会話はここでの合言葉のようだ。
──チリンチリン──
「タリア!!お客様だ!」
カーテンで覆われた隠し扉から出てきたのは、豊満な体型の美しい女だった。
そう、ここは表向きは仕立て屋を営んでいる秘密の娼館であった。
「エルヴィン様にミケ様、お久しぶりですね、お忙しかったのですか?」
「久しぶりだなタリア。まぁそんなところだ…」
タリアという妖艶なドレスに身を包んだ女から隠し扉の向こう側に案内されると、そこはボロボロの「仕立て屋」の受付とはうってかわり、上質な絨毯がしかれた廊下で、催淫剤が混ざった香が焚かれたまさにエロティックな空間だった。
各個室には入室時間と退室時間が書かれたプレートがかかっており、絶対に客同士が顔を合わせることの無いような仕組みになっている。
またここの娼館は料金は高めだが、決して客の事を外に他言しない。エルヴィンの様な立場の人間にはうってつけの娼館だ。
それにここは他ではできない仕立て屋ならではの特別なサービスもあり、裏では密かに人気であった。
受付をするために小さな個室に入った3人はタリアと向かい合うように座る。
「お越し頂き誠にありがとうございます、本日はどんな女の子を御所望で?」
「タリア、前に指名した子は今あいてるか?」
「はい、ミリアでございますね。おりますのですぐに支度をさせます。」