第1章 姉妹
突然、森の入り口に近い茂みが揺れた。
逃げなければ!!と頭では思っているが、コバトの足は震えるばかりで言うことをきかない。ピージオはそんな妹を守るように抱きしめる。
「大丈夫よ」
カサリと音をたてて現れたのは茶色のウサギ。
姉妹がいることに気付いたそれは慌てたように、踵を返して走り去った。
「ねっ。ここは結界の中だから大丈夫」
コバトは急に恥ずかしくなり、姉の腕をやや乱暴に外した。
ピージオは特に気にした様子もなく、あっさりと妹から離れた。
コバトは念のためと、空を見上げる。木々の間から淡く光る線が見える。先ほど姉が口にした結界の一部である。
この世界には魔物と呼ばれる無害な動物と分かたれた生物が存在する。時に魔物は人々に危害を加えた。人々は魔物から己を守るため結界魔導器(シールドブラスティア)にすがった。それから放たれた光は魔物を退ける力があるためである。こうして、ほとんどの人々は生まれ育った故郷(結界)を出ることなく、魔物と出会うことない一生を過ごすのであった。
コバトもその例に漏れず、彼女の好きな本の中の想像上の生物くらいに考えていた。
つい、ひと月前までは。