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でみめん

第1章 おねがいごと/ベックス



さんはそんな俺の心境なんぞひとつも気づかずに、喜々としてテーブルのセッティングを始めていた。

「お待たせ! 食べよ」
「いただきます」

卵焼きの他にも、グリルで焼いた肉とサラダと汁物が並んでいる。
どれも美味しそうに見えたが、何よりもまず、卵焼きを口に運んだ。

「どう?」
「……うまい」
「良かった!」

噛むとジュっと溢れてくるだしの味。
口の中に広がる塩気と卵のふわっとした柔らかさがなんともいえない。
きっとこちらがしょっぱい方の卵焼き。

じゃあ、甘い方は。
もう一方の卵焼きに手を伸ばす。

「お砂糖入れたから少し焦げちゃったけど」
「……気にならないっす、こっちもうまい」
「ありがとう」

甘いといっても、菓子のような甘ったるさはなく。
ほんのりと口中に広がる甘味は、どこまでも優しい。

「オネーサンみたいっすね」
「え?」
「この卵焼き。アンタの人柄が出てると思います。アンタの優しい感じがする」
「そ、うかな……私優しいかな……」
「優しいっすよ。アンタは、みんなに優しい。……『俺だけに優しい』んじゃないってのが、癪っすね」
「ベックス……」

またベックスが駄々をこねている、なんてアンタは思っているんだろうか。
普段から軽口を叩く癖があるもんだから、こういう時に真意が伝わりにくい気がする。


「そんな優しいオネーサンにお願いがあるんですけど、聞いてくれます?」
「…私に出来ることなら……」


少し警戒した顔で俺を見上げるさんに、ニヤリと口端を上げて見せた。

「手料理ふるまうの、俺だけにしてもらえません?」
「うん……分かった」

あっさりと了承を得られて、肩透かしをくらった俺。
だけどさんにはどうも俺の真意がうまく伝わってない気がして、再度確認をとる。

「アンタ、意味分かってます? 俺の言ったことの意味」
「? 手料理はベックスだけに、でしょ?」
「そうなんすけど」
「……大丈夫、ちゃんと分かってるよ」

ちょいちょいと、耳を貸すように手招きされ、さんの口元に耳を寄せると。

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