第2章 鬼龍+蓮巳/両手に華
「まあまあ、過ぎた話はいいじゃない。あ、それともゆめちゃんも撮影に入っちゃう?」
「監督、それじゃあ、ゲイビじゃなくなっちゃいますよ?」
「えー? 鬼龍くんの両手に花と蓮巳くんとの百合、いいと思ったのにー」
「そもそも思いつきで企画をねじ曲げないでください」
「いいんじゃない? 普通にはなくて楽しそうだよ?」
「……社長。いつからいたんですか?」
監督がはしゃいでいるのを止めようとした蓮巳にストップをかけたのは事務所の社長であり、蓮巳の幼馴染である天祥院英智だった。こんなところに足を運ぶなんて珍しいな? いつも現場に来ないで事務所に来るのに。
「ついさっきだよ。敬人たちの撮影場所の近くに用があって来てたんだ」
「えっと…つまり、私も出るんですか?」
「束間さんさえ良ければね。それに3人ともファンはいるし、顔もいいから行けそうだしね」
「おい、勝手に……」
「社長、そろそろ次の仕事に向かわないと間に合いません」
「そういうことだから、頑張ってね」
秘書に呼ばれて、そう言って天祥院は去っていくと、監督がはしゃいでるだけで俺たちは事の展開に追いつけなかった。
「そういや、束間の衣装あんのかよ?」
「問題ない。予備も用意していたからな。それを使えばいいだろう?」
「え、本当にやるの?」
束間は監督に着替えに出されてしまい、束間の準備を待つ間に撮影の流れをもう一度蓮巳と監督が組み直していた。
というか、束間と撮影の仕事2回目がまた和服ってどういう縁だよ…
戻ってきた束間は蓮巳とは違い、着物をきっちり着ていた。
「お待たせしました…」
「おう、似合ってるな」
「新造役でいくつもりか?」
「一応、設定的にそうすべきかなと思ったんですが…ダメでした?」
「むしろありがたい。あと撮影の流れだが…」
蓮巳と束間の打ち合わせが終わったところで、蓮巳から俺への指示がきた。撮影中、合図を送るからそこから加わること、それまでは視聴者と同じ目線でとのことだった。