第2章 鬼龍+蓮巳/両手に華
「今日はよろしく頼むな、旦那」
「こちらこそよろしく頼む」
今日は蓮巳との撮影で、俺がタチで蓮巳がネコらしい。なんでかよく分からないが、俺と蓮巳のゲイビは売上がそれなりにいいらしい。
一旦それぞれ楽屋に入って着替えた。今日は着物で行うらしく、俺は俺で着替えてスタジオに入ったが蓮巳がまだだった。監督と内容を確認していると蓮巳が入ってきた。
「旦那、今日はやけに色っぽいな」
「度し難い」
蓮巳はウィッグを付けているのか長髪で花魁のように簪が飾られ、衣装の着物も女物だった。その着こなしも細身の蓮巳だからなのか上手く肩が肌蹴るか肌蹴ないかのギリギリのラインのところに襟がかけられていた。それにメイクもいつもより赤みが強い。さぞ蕩けた時の色気は倍増すること間違いなしだろう。
「いいね! 敬人くん! やっぱりゆめちゃんにスタイリスト頼んで正解だった!」
「ゆめちゃん?」
「お疲れ様です。監督、ご希望に沿うことはできたでしょうか?」
「ばっちりだよ! さすがゆめちゃん! 腕に更に磨きがかかってるー!」
蓮巳の後ろから出てきたのは、束間だった。
たしか今朝は仕事があるからと俺より先に家を出ていった。どうしてここにいるのかわからなかった。しかも首にはスタッフ証を付けている。
「あ? 束間?」
「こんにちは、鬼龍くん。今日はスタッフとして来てるからよろしくお願いします」
「お、おぉ? スタッフ?」
「え? 知らないの? ゆめちゃんは元々スタイリストで事務所入りしたんだよ?」
監督の説明に俺は首を傾げた。束間といえば、うちの事務所の人気AV女優の1人だ。俺はそれしか知らなかった。
「でもさ、ゆめちゃん、すごい可愛いじゃん? こう素人もの撮る時に巻き込んじゃって…」
「それ、合意ですよね?」
「監督にはいつもお世話になってたので断れなくて…最初は怖かったですけど、相手の男優さんが優しくしてくれたのでなんとか大丈夫でした…」
「今じゃ人気AV女優だからおじさんもびっくり」
「おい、監督、処女に何やらせてんだ」
束間はこう言ってたが、最初なんてきっと怖かったに違いない。俺も何度か処女の女の子とやったことはあるが、恐怖で震える姿に申し訳なさを感じるのだ。