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【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】

第5章 尾形さん2



 鶴見中尉は身を乗り出さんばかりである。

「梢さんのようなお若い、しかも女性の方が飛行機の可能性を熟知していらっしゃるとは驚きの念に堪えません。そのような知見をどこから得たのか、是非ともお聞きしたい」

 私は月島さんに『飛行機すげー。絶対に将来めっちゃ流行るよ!』みたいなこと言っただけなんだ。

 だがしかし、この世界はまだライト兄弟の初飛行から数年後の世界なのだ。
 飛行船程度はあったが、一からの動力開発と命の危機を伴う飛行実験は完全に別物。
 当初、軍用飛行機開発の重要性は軍関係者にすらなかなか認知されなかったという。
 この時期に飛行機開発を試みるも、無理解と資金の壁にぶつかって夢破れた技術者は多い。

 ……その状況下で、民間人の小娘が飛行機開発の重要性を唱えてたら、まあすごいわな。

「ええと、ですね……それは……」

 落ち着け。落ち着け、落ち着けー。
 何も航空力学的な問答をしろというんじゃない。むしろ逆!
 私が見た目相応の平凡な小娘で、別に金も人脈も何も持ってませーん☆と分かってもらうだけ。

 そうすれば鶴見中尉も『ああそうですか。それでは末永くお元気で』と私を永久解放してくれる!
 庭で百年前のお客さんと会話を楽しむ、平和な日常が戻ってくるのだ!

 私はバクバク言う心臓を抑えた。

「ち、ち、父に聞きました。何かお父様がそういうことを言ってたような~」

 万能だなあ、私のお父様。どんだけスーパー超人なんだ。

「なるほど。ということは梢さんのお父君は、当然、飛行機開発のために何かしら着手されているのでしょうか?」
「さ、さあ。父の仕事とか難しいお話とか、私、全然分からなくて~」

「そうでしょうか? 梢さんの先ほどの月島軍曹への発言は、単なる受け売りとはとても思えません」

「いえ、別にそんなことないです! 全然受け売りっす! 月島さんに知ったかぶりをしたくて、父の言葉をそのまま言っただけで――!」

「もしや月島軍曹に発した言葉は、父君からの情報を元に梢さんご自身が考え出されたものでは?」

 ――ヤバい。

 口は災いの元、という言葉を身をもって学ぶ。

 鶴見中尉は、ゲームでも楽しんでいるような顔だった。

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