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【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】

第4章 月島軍曹1



 だから私のこともそこまでは追及しないと。
 感心する私の横で、月島さんも気分を変えたらしい。

「人が鳥のように自由に空を飛ぶ世界など、誰も考えもしなかったのに実現しようとしているという。
 まあ来たとして、いつになるかも分かりませんが」

 昔の人の方が思考が柔軟なのかなと思いながら、必死に勉強した近現代史を思い出し、考えなく言った。

「飛行機は速攻で実用化されますよ。だって制空権を握れば、まんま戦争で有利ですからね」

 この時代から約十年後、第一次世界大戦では軍用飛行機が使用される。

「今、各国がしのぎを削って動力の開発競争してるでしょうし、日本も早く開発に乗り出さないとヤバ……い」
 
 いかん。しゃべりすぎた。月島さんが目ぇ丸くして私を見てるし!!

「どこでそれを――」
「そそそういう話をどこかで聞いた気もします! あ、そろそろ日も暮れてきたんじゃないですか?」
「あ、ああそうですね。ではこのあたりで――」

 よよ良かったあ! どうにかごまかせそうだ。


 そう思ったとき。


「そのご見解を、もう少し詳しくうかがってもよろしいですかな?」

 ヒヤリとした。氷のナイフで心臓を刺されたかと思った。

「鶴見中尉殿!」

 月島さんが言った。

 鶴見中尉である。いつの間にか後ろにいた。
 すぐ近くに馬車止まってるし!!

 鶴見中尉は私が苦手とする人だ。幸い、彼はうちの庭については(対処不可能案件なためか)スルー気味。
 だが私の家が相当な金持ちと見込んで、私を協力者として取り込みたいと考えてるフシがある。

「構わん、月島。今日は休みだろう。梢さんの湯治の付き添い、ご苦労だった」
 敬礼しかけた月島さんに言う中尉殿。鶴見中尉は私に、

「どうも梢さん。先日は部下達が世話になりました」
「いや、どうの……その……」

 私はついつい月島さんの後ろに隠れ気味になる。
 しかし中尉殿の前では、月島さんも顔色を悪くしている。先日のように助けになってくれそうにない。

 もしかして、私たちはつけられていたのか?

「その礼を是非ともさせていただきたい――月島、おまえはもう戻っていい。梢さん。どうぞ、馬車へ」

 あくまで紳士的な。だが決して拒絶を許さぬ猛禽類の瞳で、彼は言ったのであった。



 ――END
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