【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】
第6章 月島軍曹2
しかし鶴見中尉が酒に酔わないのでは、二人で抜け出す隙を見つけるのが難しい。
月島さあん。
「止めろ、二階堂!!」
ご苦労様です。月島さんは、ケンカし始めた部下たちの仲裁に入ってた。
月島さん。巻き添えで殴られ、素早く殴り返しとる。ケンカっ早いとこあるんだなあ。
……だが私は、拳をふるう月島軍曹の姿に以前のトラウマがぶり返す。
怖くてすすっと後じさると。
「おお、梢、来たか。おまえもどうだ? とら屋の桜餅だ!」
自分の方に来たと思ったのか、鯉登少尉がご機嫌であった。
うむ。ありがたくいただこう。私は差し出された桜餅を頬張った。
甘いー!! やっぱあんこ最高ー!!
夢中になる私を見て鯉登少尉殿も満足そう。
「梢。おまえに似合う美しい羽織だな。桜に映えている」
と、着物を褒めそやしてくれた。そして私はハッとする。
この着物、鶴見中尉が買ってくれたものだったっけ。
鶴見中尉様、この着物セット、どもです。
鶴見中尉に頭を下げると、
「気にしないでくれ、梢。こちらはろくな謝罪も出来ず、心苦しいばかりだ」
鶴見中尉はうんうんと頷く。
『え……』
鯉登少尉と江渡貝の顔色が変わる。
「梢の着物は鶴見中尉殿が……?」
「そうだぞ、鯉登少尉。月島がダメにしてしまったからな」
取り巻き二名の驚愕を知ってか知らずか、茶を飲みながら言う中尉殿。
うん、月島さんに着物をダメにされた詫びに、何着かもらったの。これはそのうちの一着なんですよね。
「中尉殿が……梢の着物を買って……」
ものっすごく複雑そうな鯉登少尉。
心中で色んな感情がシャッフルされてそうだな。
「鶴見さん鶴見さん! それより聞いて下さいよ! 今、色んな材料を試してるんですが――」
江渡貝はもっと分かりやすく、仕事の話をして気を引こうとしてた。
「江渡貝君、外でその話はしないぞ?」
指でつついて、鶴見中尉がたしなめる。
ちなみに私は、江渡貝の仕事の情報から徹底排除されている。
工房周囲には絶対立ち入り禁止で、中を見るのも近づくのもダメ。
――だが。