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【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】

第6章 月島軍曹2



 旭川に行って、ケガを治して、その後は……?
 私の考えを読んだように鶴見中尉が言う。

「小樽に戻ったら、先に梢の戸籍を戻す手続きだな。
 少し面倒だが、証言はそろっているんだ。何とかなるだろう」

 ……戸籍を戻すも何も、最初から存在しないんだけど。
 あとどっから引っ張ってきた何の証言だ。

 あかん。マジでこの時代に紐付けされてしまう。
 この人の思い通りになっても、ろくな未来が無い。

 早く消えないと。
 私はチラッと月島さんを見た。月島さんは、私にだけ分かるようにほんのわずかに頷く。
 なのでホッとした。

 ただ、こんだけ第七師団が勢揃いしてる中で、どうやって消えるんだ。
 月島さんも、そう策があるわけではないだろう。

「梢。家のことは色々大変だったな」
 
 また鯉登少尉が話しかけてきた。
 彼にとって、今の私は構う価値のない身分の低い女のはずだ。しかし以前と違った様子はない。

「だが心配するな! 今は自由恋愛の時代だからな!」

 皆が聞いてる横で大声で話さないで下さいな。
 手の平返しをしないだけ刮目に値するが、以前と言ってることが逆だろうとツッコミはしておく。

 それはそれとして、ちょうど良い下り坂がすぐ側にあるな。
 梢さん、鯉登少尉から少し距離を取る。

 鯉登少尉は気づかず、
 
「だから黙って私についてこい! 安心して、おいの嫁に――!」

 えーい!!

 梢さん、助走をつけて走り、薩摩隼人に頭突きタックルをかました。
 とても素敵な音がした。

「きぇぇぇー!!(猿叫)」

 勢い良く吹っ飛び、桜道をローリングして見えなくなる鯉登少尉。

 皆さん、戦慄したようにざわざわと、
「すげえ。ちゃんと軌道を計算して跳躍してたぞ」
「あの子、顔色一つ変えなかったな」
「あれは獲物を仕留める獣の目だ。以前、山道で会ったヒグマが同じ目を――」

 何の話をしてるんだ、あんたら!
 ちなみに鶴見中尉はうんうんと、初々しいカップルを微笑ましく見ている感じだ。
 だが内心では何を考えているのやら。

「ここでーす! 鶴見さーん!!」

 そして江渡貝が、それは見事な巨木の下で手を振ってた。

 ……地面の土が、ごく最近掘り返したみたいに盛り上がってるけど! 本当に大丈夫なんだろうな!?

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