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【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】

第6章 月島軍曹2



『 か・え・ら・な・い・と 』

 またお口パクパクで伝えた。
 私が消えたら月島軍曹の立場をヤバくする。それは十分すぎるほど分かってる。
 色んな人に別れを告げることなくこの時代を永久に去るのも心残りだ。

 それでも私は、一刻も早くこの世界と縁を切らないといけない。
 
「俺は梢さんに償いをしたい。
 あなたをあの屋敷に帰すことで、それがいくらかでも叶うのなら、喜んでそうします。
 ――――だが」

 ん?

「その、梢さんは、あちらの世界でもお一人なのでしょう?」
 月島軍曹は急に歯切れが悪くなる。
「今のこの状態でお戻りになっても、大変なのではありませんか?
 もう少し、回復してからでも」

 いや回復したら旭川に送られちゃうじゃん。

「梢さんは、いつも自分は一人だと仰っていた。誰も自分など待っていないと。
 さっきだって『帰りたい』ではなく『帰らないと』と――」

 えっと。歯切れ悪くなかった。妙に饒舌(じょうぜつ)だ。

「……嬉しかった。本当に嬉しかったんです。
 例え帰るのが目的であったとしても、梢さんは、俺を頼ってくれた。
 他の誰でも無く、俺を……」

 顔を上げてこちらを見る。顔を赤くしていた。
 わずかに嬉しそうですらある。だがすぐ私から目をそらし、

「帰りたくない場所なら、何も今すぐ帰る必要はないのではありませんか?」

 はあ?

「もうすぐ桜の季節ですし、その、梢さんに見せたい景色も……ええと……」

 ええと?

 うおわああっ!!

 と、突然抱きついてきた!! 抱きついてくるなっ!!
 あんたが勢い良くボキボキ折った腕に響くだろうがっ!!

「梢さん……」

 こちらの困惑は通じず、そっと唇が重ねられた。
 私は抵抗しない。

 先ほども言ったが月島軍曹に殺されてかけたことで、彼に恐怖を感じるようになっていたから。

 中尉にまた変な命令されたのかな?
 鶴見中尉も用心深いなあ。でも今はちょっと勘弁してほしい。
 私、ケガ人なんだから。

「今は違います……命令ではない。俺は、俺の意思で……」

 シャツのボタンを一つ外し、獣のごとく息を荒くしながら月島軍曹が言う。

 ……。

 …………。

 いやそれ、余計にタチが悪いだろうがっ!!

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