第1章 もう1人の私
「五十嵐さんが何も覚えてないなら良いんだ」
そう言って微笑む不二先輩。
あ、リョーマ君と同じぐらいイケメンかと思ってたら
早く襲っちゃえよ
男なんて襲えば簡単に落ちるぜ?
その言葉が脳の中でぐるぐると聞こえてくる。
駄目。今までの人達は違う。もう出てこないで。
心の中でずっと唱えていると
バタッ。
「五十嵐さん?!」
突然目の前が真っ暗になって倒れた。
色んな声が聞こえる。
私は静かに目を閉じた。
次に目を開くと布団の上だった。
「具合どうっすか」
目の前にリョーマ君が居た。
辞めて。今目の前に立たないで…
「あ、大丈夫だよありがとう…あれ?ここはどこ?」
周りを見渡すと部屋の中。
ここはどこなのか。私もしかしたら迷惑かけたんじゃないか?
そう考えてしまう。
「合宿に着いた」
そう言ってリョーマ君が私のデコを触る。
「熱はないね、倒れるなんてまだまだだね」
笑うリョーマ君。
駄目。近寄ったらもう1人の私が出てきてしまう…
「先輩達呼んで……」
「行かないで…」
そう言って手を掴んだ。
手を掴まれたリョーマ君はびっくりした顔でこっちを見てきた。
「どう…した?」
目も合わせてくれないリョーマ君。
それでもいい。傍に居たくなった。
ただそれだけなんだけどもう1人の私が邪魔をする
「もうちょっとこうして欲しいの」
そう言ってリョーマ君を引っ張り抱きしめる形になった。