第4章 【裏】ほんの少し/あんスタ神崎
「神崎、今日は真っ直ぐ家に帰ったらいいもんが見れるぞ?」
「いいものであるか?」
「あぁ…詳しくわかんねぇけどよ」
「わからんのに言ったのか」
「仕方ねぇだろ。嫁からメールでそう伝えるように書かれてたんだから」
最初は首を傾げたが、理由を聞いて我は納得した。
「水瀬殿が言われるのであれば、その通りにしよう」
「やけに素直だな」
「水瀬殿なら間違いないと思ったまでだ」
我は寄り道をすることなく家路に向かった。家の中に入ると夕餉の良い匂いが玄関にまで漂ってきた。
「ただいま」
「おかえりなさい…早かったんだね? 颯馬くん?」
台所に行くと、いつも髪を結っていたゆめの髪は下ろされ、毛先は緩めではあるが巻かれていた。化粧も普段は色のついたものはつけないが、今日はほんの少しだけ色付ける程度に化粧がされていた。
普段見ることのない姿に思わず見とれてしまった。
「やっぱり変かな…美容院に行ったらサービスだからって断れなくて…」
「そんなことはない。美しいぞ?」
「ほ、ほんとに? お世辞とかは…」
「自分の嫁の美しい姿に驚いただけだ。無論、いつものゆめも美しいがな」
「や、そんなこと…ないから…」
恥ずかしがるゆめが可愛らしくて、思わず抱き締めたい衝動に駆られるが、ここは台所だ。何があって怪我をさせては元も子もないので頑張って耐えた。
水瀬殿、これは試練か…! 美しくなった嫁を目の前にして据え膳は試練であろう…!
「そんなことあるぞ? ゆめはもう少し自信を持って構わん。ここが台所でなかったら我は抱きしめているところだった」
「え?」
「そうとなれば、早く夕餉の支度をして、済ませよう」
「そ、颯馬くん?」
我は夕餉の支度を手伝い、終わらせるとゆめは首を傾げたまま固まっていた。とりあえずゆめを食卓につかせて夕餉を食べることにした。
ゆめが味付けした料理は美味しく、出汁も染みていて美味しかった。
「今日の夕餉は美味いな!」
「そ、そう? 颯馬くんの方が上手だと思うけど…」
「作るのは好きだが…それよりも美味しく食べて貰えるほうが嬉しいな!」
「あ、それは…わかる…」
「そうだ。今度は久しぶりに一緒に食事の支度をしよう。きっともっと美味いぞ」
「うん」