第12章 新たな刺客
「これを換金して、少しでも減らせばもしかしたらっ……時雨、うう今までありがとう……。」
「給料を前借りして、いやでもクビになったら意味がない、あああ……!」
「俺のせいだ、俺のせいだあ〜!」
愛刀を抱きしめ涙ぐむ女海兵とブツブツとああでもないこうでもないと自分の世界でひとり会議をおこなう海兵、自身の軽はずみなせいで周囲を巻き込んでしまったことに発狂する元凶。そんな彼らに対して現状を前に異常に落ち着いていたスモーカーは適当にその辺にあったベンチに身体を預けた。
「……はァ。」
さすかに大抵の苦境は乗り越えてきたつもりでいたし、どうしようもない部下の失態は拭ってきたが今回ばかりはダメだ。正義だとか人情だとかあるがゲームに負けたこちらに非がある。潔く諦められた。だか1度幕を引いたとしてもこれまで示してきた実力がある。それを上の奴らは無視はできないだろうし慈善事業でもしてまたこの場に戻りゃあいい。
……だとか、自分に無理やり理由を作らなければ気持ちに整理がつけられない。スモーカーは阿鼻叫喚の彼らを見ながらぼんやりと葉巻を嗜んでいた。
別に今すぐ帰ってもいいのだが現実からしばらく目を背ける時間を引き伸ばしたい。予定していた、ここを出る時間まで空を見つめていようとしていたら1人こちらに近づいてくる黒服の男1人。たぶんグラン・テゾーロの関係者だろう。人が良さそうな顔で近づいてくるが目の奥には嘲りが見える。話しかけてこようとする、今更どうでもいいその相手に至極面倒くさそうに目を向けた。
「……なんだ?」
「はじめましてグラン・テゾーロにようこそ。いつもお勤めご苦労さまです海兵どの──ああよく見れば!あなた白猟のスモーカーでは?」
「……。」
「こんなところでお目にかかれて光栄だ!しかしこういったご趣味があるとは、珍しいこともあるんですねェ。」
それはそれは胡散臭い彼の口ぶりに現状もあいまって指摘する気も失せる。どうせろくな話じゃねェ。おおかた海軍相手にがっぽり借金増やさせて海軍とグラン・テゾーロとの確執、望んでもない恩をさらに売りに来たのだろう。
「金はねェぞ。」
「おや、そうでしたかそれは失敬……いやむしろそれなら幸運、私と会えてあなたはラッキーだ。」
「あ?」
「どうだ、1回ここで賭けにでてみないか?白猟どの。」