第1章 プロローグ
「これもお願いね、『名前』さん」
やっと積み上げられた仕事を終えたと思いきや、
私の机には上司のその一言が耳に入ると同時に沢山の紙のビルができていた
納期がギリギリの仕事を今やっと終え昼食はおろか朝食も仕事で時間が無くとれていないのに……という考えは入社して数日で消えた。
今の私にはただ、
「はい」
としか口から出なかった。
いつから表情筋は動かなくなっただろう。それ程私はここ最近笑ってない。ただ頭には納期、取引先への連絡について、しか無かった。
軽い自己紹介をすると、私の名前は『苗字』 『名前』
この通りブラック企業に務めるOL。
バカみたいに湧き続ける仕事、むちゃくちゃな納期、休憩をとることもままならない企業形態、次々と転職、消える同僚……
唯一希望の光で溢れたフォントのダサいスローガンを横目に私は黙々と目の前の仕事をやり遂げた。
…
そうして時は過ぎ、『名前』は日を跨いで家に着く
「ただいま〜」
返事はもちろんなく欠伸をしながらスイッチに手を伸ばした。
しんとした真っ暗の部屋に明かりがつき、夕食が傾きコンビニの袋が音を立てる。
最初は自炊をしていたがそんな時間をまわすくらいなら睡眠にあてなければ体がもたない。これでもギリギリだ。
しょぼつく目を擦りながらフラフラと『名前』は親に就職祝いに買って貰ったソファに腰掛けた。
夢だったソファも数年たった今ではこの瞬間しか使わないから傷一つない。
車の音と猫の盛り声をききながらただ
「……疲れた」
とだけこぼした
ちらりと見える書類にため息を落としながら夕食をとることにした。結局昼食もまともに食べてないのでさっきからずっと胃液で胃が痛い。
ガサガサと袋を探っている最中、スマートフォンから明るい通知音が鳴り響いた
「ん?この音は仕事用じゃない……久しぶりに誰からだろ」
仕事の連絡ではない通知音、プライベートで誰かと会話なんて殆どしていなかったから少し高揚感をもちつつみた
「?なにこれ」
メッセージには「こんにちは」としか書かれていなかった。
それも相手は知らない人。新しく私を追加してきたらしい。
「……なーんだ、知り合いじゃないなら構ってられませ〜ん」
スマホをソファに置いて目の前の机に夕食を並べた。