第2章 トリップ
夜歩きと邂逅【side臨也】
その夜、臨也は息を整えるために池袋の街を歩いていた。というのも池袋での仕事の帰りに静雄に見つかり、予想外の追いかけっこをするはめになったからだ。後もう少しあれが続いていたら今回は捕まっていたかもしれない。今日は幸いにも静雄の投げた自動販売機が他の通行人に当たったことで逃げ切ることができたが、次は予定外の追いかけっこはしなくて済むようにきっちりとあの天敵のスケジュールを調べておかなくてはならない。
そんなことを考えていると人気のない公園に出た。あまり来た記憶がないところを見るとここは池袋でも端の方なのだろう。そして、その公園のベンチの前に白い猫耳パーカーとショートパンツを身につけた少女が座っている。__これは、ちょうどいい。静雄に追いかけられたにも関わらず大した報復もできずに逃亡してしまい、ちょうどこのまま帰れるような気分ではなかったのだ。臨也は少女に声をかけようとした。
が、その少女は突然紙飛行機と思しきものを何もない公園の真ん中に向かって飛ばすと身を翻し、街の宵闇に溶暗してしまったのだ。全く今日はやろうと思ったことが悉く上手くいかない。こういう日を厄日と言うのだろうか。そんなことを考えながら彼女の放った紙飛行機を拾い上げ、その紙を開くと__短い文章が書き付けられていた。
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祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり
娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす
おごれる人も久からず、ただ春の夜の夢のごとし
たけき者も遂にはほろびぬ、ひとへに風の前の塵に同じ
(平家物語 巻第一)
dear折原
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「あはははっ、あはははははっ‼︎」
臨也は可笑しそうに笑った。偶然ここに辿り着いた自分の前に現れ、まるで予言か或いは忠告のような引用を残して去った少女。いったい何者なのだろう。
今日が厄日なんてとんでもない。臨也は自分の好奇心を満たす興味の対象を見つけ、ただただ可笑しそうに笑った。