第55章 夢現
~ * 亀甲貞宗 目線 * ~
目の前には息絶え、段々と朽ちゆくあの男の体が無様に転がっている。
泣いてはいないだろうか、苦しんではいないだろうか。
もう怖いものは居なくなったよ…だから、もう泣かなくて良いんだ。怖がらなくても大丈夫だよ、そう…ご主人様に言ってあげたい。
抱き締めて、その小さな背中を撫でてあげたい。
亀甲「ご主人様……」
そっと呟いた言葉が真っ白で虚無な世界に響く事も無く、何かに吸い込まれるかの様に消える。
ただ真っ白な空間に手を伸ばす、触れる事すら叶わない壁がある様な気がして。
亀甲「会いたいよ……」
何もない空間で、自分の声が僅かに響いた様な気がした。
その時だった…。