第55章 夢現
亀甲が姿を消してから、二週間が経った。
誰もが、亀甲の名を口には出さぬ様にしていた。
きっと、私が泣くと思っての事だろう。
もう…会えないの?
この部屋であんな格好で待っていた時は、本当に驚いたものだ。
畳を撫でながら思い出しては、涙が零れる。
主「亀甲、会いたいよ…」
僕を愛して、と言って笑った彼の寂しげな笑顔が頭から離れない。
亀甲は帰って来るだろうか、という問いに誰もが口を噤んだ。
唯一答えを返した鶯丸には、亀甲は帰っては来れないだろう。そう、言われてしまった。
三日月「主、居るか?」
不意に、襖を挟んだ廊下から声を掛けられる。
三日月だ。
正直言うと、今彼と話すのは嫌だ。
三日月は何でも見透かして話す様な節がある…心をざわつかせる天才だ、と私は思う。
主「今は…」
三日月「入るぞ」
私に制する間も与えず、襖を開けて部屋に入って来た。
私と向き合う様に腰掛け、真っ直ぐに見据えて来る。
い、居心地が悪い。
やはり私は三日月のこの目が…苦手だ。
三日月「やはり月とは違うなぁ」
主「へ?」
いきなり何なんだ?月とは違う?
私がきょとんとした顔で見詰めていると、窓の外へ視線を移して再び口を開いた。