第53章 敵襲
男の言葉一つで乱が左文字兄弟の部屋から飛び出し、勢い良く小烏丸と刀を交えた。
甲高く鳴り響く金属音が、乱の心を物語るかの様に悲しく響いた。
骸に操られた乱に対し、小烏丸は後れこそ取ってはいなかったが…力量は同等といった様に見えた。
骸「ふん、下らない。万屋の続きでもしてやろうか、コイツらの前で…な」
主「や…っ」
嫌だ、こんな奴に触れられたくない!
刀剣男士に触れられた時には感じた事の無い嫌悪感に、全身が震え出す。
座り込んだまま後退ると、追い付かれる。その繰り返しで、私はついに壁へと追い詰められてしまった。
主「や…やだ…」
目の前に迫る男の手に、恐怖から涙が溢れ出る。
亀甲「ご主人様!!」
勢い良く飛び出す様に駆けて来て私を背に目の前に立ちはだかったのは、亀甲貞宗…私の大事な初期刀。
しかし、骸は亀甲の刀をいとも簡単に片手で受け止める。
素手だが、神力を集め結界を張っているのだろうか?この男はやはり、強い。
ただ、どうしてその強い力を悪用してしまったのだろう…。
亀甲「僕は、ご主人様の事が何よりも大切なんだ」
腕に力を入れたまま、亀甲は骸を睨み付けたままで語り掛ける。
亀甲「ご主人様…先に謝っておくよ」
主「…へ?」
亀甲「もし戻って来る事が出来たなら、その時は……」
“ 僕を愛して ”
そう言って此方を向いた亀甲の寂しげな笑顔に、私は嫌な予感で全身を震わせた。
亀甲「骸、僕と逝こうか」
骸「………まさか、神隠し…っ!?」
次の瞬間、眩い光が辺りを照らす。
あまりの眩しさに閉じた瞼を再び開くと、亀甲とあの男の姿は跡形も無く消えていた。