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薬屋の譫言

第4章 名探偵誕生


二話 二人の妃②

義姉である猫猫が籠を持った女官に話かける
女官が持つ籠には、上等の絹が入っており、西側の水場で洗わねばならなかったのだ

「中央にいるというものすごく綺麗な宦官を見てみたい」
『…私も』

小蘭からついでに聞いたハナシをすると、快く代わってくれた
色恋の刺激の少ないここでは、すでに男でない宦官ですら刺激の対象となるらしい…女色に比べたらまだ健全なのだろうが理解はできなかった
(いつか理解できるのだろうか…)
と思いつつ、大猫と二人、足早に洗濯籠を届けると、中央に位置する赤塗りの建物を見る
東のはずれよりも洗練され、各所に彫物が施された手の込んだ宮である
そんな中、見えた光景はさほど市井と変わらない…罵る女と俯く女と狼狽える女たちと仲裁する男だ
そのまま野次馬に加わり様子を伺う
周りの囁きと風貌から罵る女は後宮の現最高権力者である東宮の生母の梨花妃、俯くのは公主を産み帝の覚えもめでたい玉葉妃、仲裁に入るのはすでに男でなくなった医官だろう

《お前が悪いんだ。自分が娘を産んだからって、男子の吾子を呪い殺す気だろう!》

(怖い…)
つい隣にいる大猫の袖にしがみついた
美しい顔が歪むととても恐ろしく、幽鬼の様な白い肌と悪鬼の如き眼差しが頬に手を添える美女に向けられている

《そんなわけないとわかっているでしょう。小鈴も同じように苦しんでいるのですから。ですので、娘のほうの容態も診ていただきたいのです》

医師が東宮ばかりを診て、自分の娘を診ない事に抗議をしに来たようだ
後宮という仕組みから男児優先は当然だが、医師にしてみれば、謂れのないことと言いたそうな顔である

『…ヤブなのかな』
「滅多なこと言うんじゃない」
『だってあんなの…診たらわかる』
「そうだな…」

知識さえあれば、あれほど近くにいたらすぐに気づくだろう
乳幼児の死亡、頭痛、腹痛、吐き気に梨花妃の白い肌と覚束ない体

「娘娘、いくよ」
『うん』

通り過ぎる人物に目もくれず大猫が書けるものがあればとブツブツ独り言を呟きながら、二人で騒動の場をあとにした
(あれ、今の人…)
通り過ぎる人物の中に噂になっている宦官が居たような気がして振り向いたら、その人物と視線が合わさってしまった
慌てて急ぎ先に行ってしまった大猫を追いながら、まずいなぁ…と独りごちる
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