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嫉妬は最大の愛情表現

第1章 1


「聞いてなかったの?来週は、舞台を観に行ってくるって話」

「もしかしてお嬢様のおすきな、あ……あの俳優のですか?」

動揺しすぎて、どもってしまった。

「うん。ミュージカルだから生歌が聴けるんだ。演技も上手いけど、わたしの中ではあの人の歌ってる姿が一番すきだし、カッコいいと思うの」


一番すき?格好いい?

川島は自分の耳を疑った。
どうか今の言葉が幻聴であってほしいと願った。

立ち尽くす川島にお構いなしで、お嬢様はその俳優のどこがどう格好いいのかを語りだした。

ショックが大きすぎて話が耳を素通りする。

確かにオレは歌など上手く歌えない。
演技などしたこともなければ、できない。

歌っている姿が格好いい、というお嬢様の言葉が脳内でリフレインする。

オレに無いものをあいつはもっているのか……お嬢様を満たせるものを。

川島は自分の心と身体から、なにかがズルズルと抜け落ちていくような虚脱感を覚えた。

「聞いてる川島?」

ハッと我に返る。

「ええ……お嬢様、くれぐれも気を付けて行ってらしてくださいね。お帰りはいつ頃になられますか?」

「うーんと、夜の公演だから少し遅くなるよ。だいたい22時すぎになるかな。夕食はいらない。むこうで食べるから。お迎えも気にしないで」

「……そうですか」

そんな夜に出歩くなんて心配だ。家と劇場でドア・ツー・ドアになるようオレが車で送り迎えしたい。

でもそれは叶わない。迎えは要らない、とお嬢様に言われれば自分になす術はない。

「なに着て行こうかなあ」

川島は、お土産買ってくるね、といってはしゃぐお嬢様をただ見つめるしかなかった。


     *


舞台の当日。

お嬢様はいそいそと陽も高いうちから出かけて行った。
広い邸に川島を独り残して。

しかも、自室に携帯電話を忘れていってしまった。
取りに帰ってくる様子もない。

川島は、お嬢様のいなくなった玄関にしばらくの間ぽつんと佇んでいた。

まるでデートにでも行くような、はしゃいだ姿を思いだす。

「オレと出かけるより楽しそうだったな……」

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