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嫉妬は最大の愛情表現

第2章 2


振りむいた川島の頬に一筋の水の線ができていた。

指で目じりに溜まった涙をすくう。
濡れた睫毛が指先を撫でた。

「泣かないでよ川島、わたし今すごく嬉しいんだから」

川島が濡れた目を瞬かせる。

「嬉しい?なぜですか。あんな酷いことをしたのに。お嬢様を、怖がらせてしまったのに……」

「だってヤキモチ妬かれてたんでしょ、わたし」

まだわけがわからない、といった表情の川島。

「わたしがすきな俳優のこと考えたり話したりすると、狂暴な気持ちになるっていったじゃない。それ、ただの嫉妬でしょ」

「嫉妬?……そうなのですか?」真顔で聞いてくる。

「そうなのですかって……川島、今まで嫉妬したことないの?」

「ええ。女性との付き合いはありましたが、こんな気持ちになったことは一度もないです」

驚愕の事実に半ば呆れながら、お嬢様はいった。

「じゃあその気持ちが嫉妬、ヤキモチっていうの。わかった?」

この会話はなんだろう。

初めて恋を経験した子に教えるようなことを、なぜ大の男にこんな真面目な顔で話しているのか。

だんだん可笑しくなってきた。

「わたし川島がヤキモチを妬く意味がわからない。ただの俳優さんじゃない。本当に会って話してるわけでもないのに」

「それは、お嬢様がわたしの髪や服を――」

口調がオレからわたしに戻っていた。落ち着いているいつもの川島だ。お嬢様はホッと胸を撫でおろした。

「あの俳優に似せようとしてくるから……わたしのことを想ってくださるのも、ただ顔がそっくりだからなんじゃないかって」

思わず、ため息が漏れる。

「川島、誤解してる。とても大きな間違い」

「え……?」

お嬢様は川島に抱きついた。
目の前にある首のホクロを眺めながらいう。

「あの俳優さんのことは、川島に似てるから応援してるだけだよ。雑誌だって川島に似てるから見てるだけ」

川島の黒い真っすぐな瞳が見つめてくる。

「本当は川島のグラビアみたいなのが欲しいけど、主人が執事の写真みてニヤニヤしてるなんて変だし恰好つかないじゃない、だから――」

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