第10章 零部・二人の時間
「………」
そうじゃない。今この状況で目が覚められてしまうのは困る。チヅルの記憶を見てチヅルが相当男に対して嫌悪感を持っているのを理解した。だからこの状況は誤解され兼ねない。
-つんっ-
「!」
チヅルを柱にもたれ掛けようとしたら首飾りにチヅルの髪が絡んで行動を制される。切っ…てしまうのは忍びないので丁寧に解く作業をする。
『ん、う…』
「チヅル…?」
すり、とまるで仔猫の様に頬を寄せてくる。
唸って苦しそうに歪められていた表情も安心した様な寝顔になって穏やかな寝息を立てる。
「まぁ…いいか」
これだけ安心して眠っているのを起こしてしまうのは悪い………し役得と言えば役得だから、少しこのままでも悪くは無い。
※※※
夢を見た。暖かい夢。
誰かがアタシに寄り添ってくれて胸を貸してくれるの。それがとても優しくて酷く安心する。誰だろう?婆様?それとも母様?否、違う。
ねえ、あなたは誰?
声も出なければ視界もぼやけてて何も分からない。
-すっ…-
徐々に覚醒する意識。まだ重たい瞼を薄らと持ち上げると、まだ視界はぼやけている。数回瞬きをすると鮮明になる視界。意識はまだ微睡み。空が白んでいるのを見ると夜明けが近付いてる事が分かる。
「起きたか」
『?』
随分と近くから聴こえる声に頭を上げるとデジャヴかなってくらい至近距離にある端正な顔。確かアタシは柱に寄りかかって仮眠を取ろうとしたハズなのに何故イタチさんの胸に寄りかかっているのだろう。
-バッ-
-ガンッ-
『あだっ!?』
「チヅル!?」
何故こうなってるのか…イタチさんの記憶を見て寝惚けた自分のせいだと分かり、恥ずかしさのあまり勢い良く離れたら背中を柱に強打する。
『あ痛たた…』
「チヅル…」
『だっ!だだ大丈夫!!!じゃなくて!ご…ごめんなさ…』
バチッと漆黒の瞳と目が合う。ただそれだけで何も無いのに頬に熱が集まる。
※※※
誰がこんなチヅルを想像出来ただろう。きっと誰も想像出来ない。正直、俺ですら想像出来なかった。
何時ぞやに十蔵がチヅルの事を男前だと言った。