第9章 零部・過去
その頃のアタシはこの力も持たない幼子だったから祖母の言葉の意味は分からなかったけど少しだけ覚えてる。
男を恨み憎み沢山殺せば開眼する、でもそうなって欲しくないと祖母は言った。そして第二段階は幻術や瞳術にかかりにくくなる。もともと嘘を見抜く為の目だから幻と言う虚偽は効かない。第二段階まで覚醒する方法は何かの為に全てを捨てる。それがアタシにとっての弟妹と島の全てだった。
だけどどうしても第三段階が思い出せない。
「…その様だな」
『!』
三つ巴模様がゆっくりと変化して行く。これが噂に聞く万華鏡写輪眼か…どのくらい強力なものなのだろう、と思ったと同時にこの目は危険だと察知する。アタシが危険なのでは無い。彼に…イタチさんにとって危険なものだと。
※※※
ゆっくり、ゆっくりとチヅルの記憶に沈む。
まだ幼子のチヅルは城下から街を見下ろす。その隣にはチヅルも大人になったら、その様に美しくなるだろうと思われる母親らしき女性。
『ねぇ、ばばさま。わたしたちはおしろにすんでるのに、どうしてかあさまは…まちまではたらきにでてしまうの?』
ばば様…祖母だったのか…随分と若い気がする。まだ30代…半ば後半くらいに見える。
「それが女の仕事だ。優秀な血族だろうと関係無い…この島に居る以上、私達女は男に尽くさねばならない」
『つくす…?』
「出来る事なら惚れた男にだけ尽くして欲しいが…そうも言ってられない」
そう言ってチヅルの頭を撫でる女性はチヅルが弟妹を撫でる姿と重なる。
そうして間も無く…祖母はこの世から去る。それは第三次忍界大戦後の話。戦で殉職した祖父の後を追うように自害したと見られていたが、そうではないとチヅルが気付いたのは六つの時だった。
祖母が死ぬ間際にチヅルに託した氷遁の書で日々修行を怠らなかったチヅルは六つにして高度な忍術を会得していた。だからこそ見付ける事が出来た結界に守られた隠し部屋。
『これは…』
弥生家の家系図と秘密。
元々男系の弥生家。雪一族の血が入ってから女系に変わる…否、女を増やす為に雪一族の血を取り入れたと言っても過言では無い。それもあの目…鏡魔眼を開眼する為に。だが開眼方法は記載してない。