第13章 8年経って
席に着くとシャンパンを頼みゴホン、となにやら咳払いをする彼女。
「えーでは、出来る女佳奈さんの
結婚前夜にかんぱ~い!」
自分の細いシャンパングラスを私のそれにも当て" チン "と甲高い音が彼女を祝福する。
「自分で主催して自分が幹事ってどうなの?」
その違和感に突っ込むと
「ほら、つべこべ言わない!
もっかい!かんぱ~い!」
そんな彼女に笑い、同じ様に「かんぱーい! 」と叫んだ。
久しぶりに会った彼女は何にも変っていない、あの頃と同じ。良く笑ってよく食べて、仕事で疲れてたはずなのに彼女といると楽しくて疲れなんて忘れちゃう。
そんな気分のいい日。お酒も回ってくるとつい昔話に花が咲くなんてことは、この歳になるとよくある話。
「でさあ!初めて会った時慶太
主人公名前のこと可愛いと思ってたらしいよ!」
「あはは、そうなんだ」
「失礼しちゃうよね~!
まあその後、主人公名前は翔様への気持ちに
やっと気づいたらしいけど」
ニヤつく彼女が言った懐かしい名前にドキッとする。
「ん?さては今ドキッとした?」
「し、てないよ」
「あっれれ~!顔赤くなってる~!」
と茶化す彼女、またいつものように愚痴が始まった。
「…ったく、佳奈の人生史上
あれは意味のわからない結末だった。
言っとくけどまだ納得いってないからね!」
この8年間、常に言われ続けていたこと。
「もう、昔の話だよ」
そう言って、グラスに口をつける。テーブルにそれを置くと、視線が合った彼女に
「なんで会わなかったの、あれから」
と切ない顔をして言われた。
この話になると私以上に辛そうな顔をしてくれる彼女。そう言えば、ちゃんとした理由なんて誰にも話したこと無かったな。
あの日、全ての思いを胸にしまったから。