第10章 遠い人
お店を出たところで、隣のお店の入り口が人でいっぱいになっているのに気がついた。
「主人公名前、アレ」
三井君が視線を送った先には、数台のカメラと衣装を身に纏った、久しぶりに見る彼の姿。
「…翔くん」
ロケの打合せ中だろうか、スタッフの人と話す彼。仕事の現場なんて初めてで、遠くからでも仕事をする真剣な表情に嬉しくなった。
「…なんかやっぱ、
芸能人なんだな、櫻井って」
人だかりの中心にいる彼を見て、隣の三井君が寂しそうに言った。
遠くから見てもすぐに嵐の櫻井翔だってわかる。
あんなに「芸能人ぽくないね」そう言っていたのに、なんだか彼とのこの距離が凄く遠くに感じた。
「…そうだね」
またチクッと胸が痛むと、顔を上げた彼と視線が合った気がして。
私は笑って手を上げようとしたが、彼は一瞬だけ目を大きくすると、そのまま何事もなく視線を外した。