第9章 素直な場所
「おーい、主人公名前」
「んあ、え?」
ギュッと後ろから抱きしめられる。
「相変わらずボーっとしてんね」
羽交い絞めのような状態に、首を少し後ろに回してその顔を確認する。
「あ、佳奈か」
「ムッ、ちょっと。
人気者の佳奈ちゃん捕まえといて
そのセリフはないんじゃない?」
「あいあい、すみません、
佳奈ちゃん大好きよ」
適当なご機嫌取りをすると、頬を膨らませた彼女が私に指を差す。
「あー!佳奈が好きって言われれば
喜ぶって思ってんでしょ
そうよ、嬉しいわよ」
「なんだそれ」
佳奈とは相変わらず、いつも一緒で。
「あ、そうだ。翔様元気?
最近佳奈と遊んでくれないからさー」
「うん、元気元気。もお電話で耳痛い」
「翔様ってさ、王子様っぽいのに
おしゃべりよね」
「確かに。うちのお母さんと
平気で5、6時間話すよ」
「おしゃべり好きのおばさんじゃん!」
「言えてる」
こんなくだらない彼の会話もワクワクするのは、私が彼に、特別な思いを抱いているからで。
笑う私を見つめる優しい視線に気がつくと
「…どう?
自分の気持ちには慣れました?」
と聞かれる。
彼のことを好きだって気づいた時は、色んな事に戸惑った。
幼馴染歴が断然に長くて、男の人として意識し始めた途端、今まで平気だったこと全てにドキドキが止まらなくて。