第9章 素直な場所
デニムシャツの袖をまくって、ふと気づいた。
そういえば、あんなに赤かった左手の火傷が治っている。
あれは春から夏に変わろうとしてた季節、今はもう長袖を着られるくらい涼しくなって。
「ちょっと残っちゃったか」
人差し指と中指で火傷の後をなぞる。
そういえばこれ、翔君に怒られたっけなあ、と少し前のことなのにもう昔の思い出のように物思いにふけるのは、変わってない私の癖。
私がまだ彼への気持ちに気づいてない時に出来たその痕は、なんだか随分と前に感じる出来事。
偶然帰り道に会ったあの日の夜を最後に、彼とはあんまり話せてない。
以前のドラマは終わり、今は新しいドラマを取り始めているとか。学校でも時々しか見なくなって、以前のように一緒に来ることも無くなった。
でもそれは彼が頑張ってる証拠で、彼が皆から必要とされている証拠。
今は時々かかってくる電話で、お互い元気なことだけを確認して。
彼は仕事のことを私に話さない。
だからいつまでも私の中で彼は、嵐の櫻井翔じゃない、幼馴染の翔くんのままなんだ。