第9章 素直な場所
「うん、もう大丈夫。
ちゃんとわかってるよ、好きだって」
今はもう、彼の前でも以前のように話せる。今までと違うのは、私の心の奥。
「…主人公名前さ、少し変わったよね」
なんて柄にもなく柔らかい声を出す佳奈に、どこが、と笑う。
確かに、ショートだった髪の毛は肩についたけれど。私自身何かが変わったという自覚はない。
「もっと可愛くなった
雰囲気も、優しくなったし
大人っぽくなった」
そんなにベタ褒めされた経験のない私には反応に困る言葉の数々。ましてや、あの佳奈が人を褒めるなんて。
「…な、どうしたの…佳奈」
へへへ、と照れたように笑う彼女が、そのままふざけることなく、素直な気持ちを言葉でくれる。
「うん、佳奈さ、
翔様と主人公名前が上手くいってほしいって
ほんとに思ってんだ」
そう言って天井を見上げた彼女、
唯一、私の気持ちをわかってくれる人。
今の私にとっては、佳奈だけが本当の気持ちを言える場所で。そう思うと目の奥が熱くなるのを感じた。
「ありがとう佳奈。ほんとに大好きよ」
私はギュっと彼女に抱きつく。
「もお、暑いからはなれて」
なんて言うのは照れ隠し。
佳奈のおかげでこの気持ちに気づけた、佳奈のおかげでこんなに前向きな恋になった。
私はもう一度、ギュッと精一杯の力を込めて「ありがとう」と呟いた。