第8章 同じ気持ち
「…俺、昔さ、
泣き虫だったの、覚えてる?」
ゆっくりで低い、優しい声。
「うん…?」
覚えてはいるけれど、それが何を言わんとするのか、意図が読み取れなくて。
「体も小さくて、女子にも敵わなくて
おまけにすぐ泣くしさ
みんな俺のことバカにして
顔も母ちゃんに似て女っぽいから
お前はオカマの"翔ちゃん"だって」
彼が泣き虫だったのは覚えているけれど、あだ名なんて。そんなこと、忘れていた。
「そう、だっけ…、」
うん、そうだよ、と小さく笑った後に
「だいたいさ、男の子はみんな
~君って呼び合ってたんだけど
俺だけちゃん付けだったわけよ
まあ今は単なるあだ名としか
思ってないけどね?」
私の顔から手を離した。
「でも主人公名前ちゃんは違った。
俺みたいな泣き虫でも
翔君は男の子だ、
って言ってくれたんだ」
「…そんなこと、言ったかなあ」
見に覚えのないその昔話は、なんだか美化されたモノで、自分がヒーローだなんて恥ずかしかった。
「覚えてない、か」
少し寂しそうなその顔に、またギュッと。
これは一体なんなんだろう。
黙る私に、ふと笑った彼が切なそうに目を細めて。
「俺さ、あなたの呼ぶ、
その翔君っての?
昔からすげぇ好き」